la-musicaの美の採掘坑

自然、美術、音楽、訪れた場所などについて、「スゴイ!」「きれいだな...」「いいね」と感じたものごとを書き留めています。皆さんの心に留まる記事がひとつでもあればうれしいです。

苺のある静物 (絵の採掘坑 16)

先日小布施北斎館で、魚や果物や花などが瑞々しく活き活きと描かれているのを見て、北斎の肉筆の静物画の素晴らしさを再認識しました。

これまでヨーロッパを中心に美術館で数多くの静物画を見てきましたが、最も印象に残っている静物画は、ハーグのマウリッツハイス美術館にある「苺のある静物」です。

苺のある静物

石の台座の上にみずみずしくふっくらした苺が積まれていて、右上から当てられている光によって暗い背景の中に浮き上がって見えます。

積まれた苺の向きは色々ですが、いずれの苺からも、その微妙な色使いによって、ざらざらして且つ弾力性のある触感が手に伝わってくる気がします。

ついつい手を伸ばして摘まんでみたくなります。

横に広がる苺に対して、上に伸びる白い花が絵に縦の要素を加えていて、台座から下へ向かって何気なくはみだした苺も絵にアクセントを与えています。

この絵は16.5cm x 14cmの大きさの小品で、1705年にアドリア―ン・コールテという静物画を専門とした画家によって描かれたものです。

パネルに紙を張ったものの上に描かれています。

コールテの生涯についてはほとんど情報がないようですが、オランダ南西部のミデルブルフで活躍したようです。

はみ出した苺の右側にコールテの署名と年記<1705>が記されています。

「静物画」が隆盛を極めたのは17世紀のオランダで、「動かざる物」を意味する「静物」という用語は1650年頃にオランダでつくられた言葉なのだそうです。

当時のオランダは、園芸学が発達し野菜や花の品種改良が進むとともに、海運国としても発展し世界中から珍しい品々が運び込まれていました。

都市の繁栄の象徴であるそうした品々は、精緻な描写と輝く色彩によって画面に再現され、絵画作品として永遠に所有されたのです。

マウリッツハイスは、もともとオランダ領ブラジルの総督を務めたヨハン・マウリッツの邸宅として建てられたものです。

古典主義建築の瀟洒な建物で、美術館としての規模は大きくはありませんが、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」「デルフト眺望」やレンブラントの「テュルプ博士の解剖学講義」「スザンナ」を始めとする名品が揃っていて、貴族の館の落ち着いた雰囲気の中でじっくりと鑑賞できます。

大好きな美術館です。

シックな壁にかかったこの「苺」の赤は遠くからでも目に入ってきます。

マウリッツハイスの雰囲気の中で鑑賞したい作品です。