晩鐘~わが心のフライブルク (絵の採掘坑 15)
フライブルクは、バーデン・ヴュルテンベルク州の南西部、シュヴァルツヴァルト山地の麓に位置するドイツの都市です。
大学都市であり、また環境保護で先進的な取り組みをしている"グリーンシティ"でもあります。
小路の横の溝に清流が勢いよく流れる旧市街の、美しい街並みの中をぶらぶらと散策すると、心地よい時間が過ごせます。
学生時代に二カ月ほど滞在したことがあり、ドイツの中でも大好きな都市の一つです。
そのフライブルクの街のシンボルが旧市街の中心に建つ聖母マリア大聖堂です。
1354年に起工し1513年に完成、ロマネスクとゴシック様式が混在した建物です。
高さ116メートルの尖塔ははるか遠くからも目に入り、「キリスト教のもっとも美しい塔」とも称えれられています。
東山魁夷の「晩鐘」は、フライブルクの聖堂尖塔と旧市街の街並みの夕暮れの情景を厳かに美しく描いています。
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小布施で北斎の天井絵や肉筆画を見た後、長野市に向かい、東山魁夷館を訪ねました。
今年の東山魁夷館の年間テーマは「六本の色鉛筆」。
現在は「青いライン」というタイトルで、東山魁夷の”青”の世界を中心に作品が展示されていました。
展示作品の中で、小学5年生の娘が最も気に入ったものは、晩鐘の習作でした。
「晩鐘[習作]」は、1969年、東山魁夷が61歳の時にドイツ・オーストリアを旅行した際に描かれたものです。
雲間から降り注ぐ光の柱が、尖塔のシルエットを浮かび上がらせています。
そして、ほのかに明るく茜色に染まった地平線と、画面中心に垂直に立ち上がる暗い尖塔が画面中央で十字に交わります。
安らぎや厳粛さが漂う作品です。
1971年に制作され新作展で発表された「晩鐘」は、習作ではひとかたまりであった雲を光の帯で分割しています。
又、尖塔の位置をより画面中央に、若干高めに動かしています。
本作品は諏訪市の北澤美術館に収蔵されています。
2008年に東京国立近代美術館で開催された東山魁夷の生誕100年を記念する回顧展で見たことがあります。
娘が気に入ったのはこの作品の色合いだそうです。
自分にとっても同じ。
この作品の色合いは、自分が大好きな、ドイツ・ロマン主義の風景画家フリードリヒの作品「ドレスデン近郊の大猟区」を思い出させます。
自分の色彩の好みがDNAで娘に受け継がれているのだろうか、と考えさせられた東山魁夷館の訪問でした。