コレッジョ~聖母子像・神話画 (絵の採掘坑 24)
コレッジョは、パルマ大聖堂の円天井画に携わった時期(1526年~30年)に、並行して油彩画の傑作も生みだしました。
パルマ国立美術館ではコレッジョの油彩画も色々鑑賞することができます。
パルマのサンタントニオ聖堂の礼拝堂の祭壇画として描かれた『聖母子と聖ヒエロニムスとマグダラのマリア』は「イル・ジョルノ(昼)」の通称で知られています。
夏の日差しを避けるため張られた天幕の下で、聖母が岩の上に腰かけています。
マリアの膝に座る幼子イエスは聖ヒエロニムスと天使が支える聖書をながめています。
そして、マグダラのマリアはしなだれかかるようにしてイエスの左足に頬をよせ、イエスが彼女の髪に左手を軽くのせています。
聖母子を中心とした「聖会話」の作品です。
輪郭線をぼかすスフマートの技法が用いられおり、画面から柔らかさ、暖かさを感じます。
うっとりとしながらも少し悲しげなマグダラのマリアの表情が特に美しいです。
『スープ皿の聖母』という聖母子像もあります。
こちらはサン・せポルクロ聖堂内の礼拝堂に設置された作品で、主題は「エジプト逃避途上の休息」です。
ただイエスは幼子ではなく、一人で歩けそうな子供に描かれています。
画面左下のマリアの持つスープ皿から、画面右上の棕櫚の葉を掴むヨセフの手へ向かって流れる対角線の構図が斬新的です。
上空に舞う天使達も躍動感にあふれています。
パルマ国立美術館のコレッジョの作品ではフレスコ画の『聖母の戴冠』も気に入りました。
キリストもマリアも若々しく人間的に描かれていてとても暖かさを感じさせる作品です。
胸の前で手を交差するマドンナの初々しさと、手を掲げるキリストの精悍さが印象的でした。
ドイツ滞在中に妻と美術館巡りをするようになってからも、各地の美術館でコレッジョの作品に出会うことができました。
ロンドンのナショナル・ギャラリーにある『籠の聖母』は妻も自分もお気に入りの作品です。
聖母は縫いあがったばかりの上着を「出来たから来てみて」と幼子イエスに着せています。
左下のバスケットの中には裁縫道具が見えます。
わが子を慈しむ聖母マリアの優しい表情が素晴らしいです。
コレッジョは1520年の半ばから晩年にかけて、マントヴァのゴンザーガ家のために神話画と寓意画を制作しました。
最も早い作品は『キューピッドの教育』で、ヴィーナスのかたわらで息子のキューピッドがメルクリウスから読書を教わる情景を描いたものです。ロンドンのナショナル・ギャラリーで見ました。
コレッジョは「ユピテルの愛」の連作(4点)も描いています。
縦長の作品、『イオ』と『ガニュメデス』はウィーンの美術史美術館にあります。
『イオ』では黒雲と化したユピテルがイオを抱擁して愛を交わすシーンが描かれています。
黒雲の表現はスフマートを得意としたコレッジョの真骨頂でしょう。
一方『ガニュメデス』では、黒鷲に姿を変えたユピテルが美少年のガニュメデスを誘拐して連れ去ろうとしているところが描かれています。
ローマのボルゲーゼ美術館では『ダナエ』を見ました。
寝台の上に横たわるダナエの上に黄金の雨に姿を変えたユピテルが降り注いでいます。
そして、キューピッドが横にいて黄金の雨を受けとめています。
残る一点、『レダ』はベルリンの国立絵画館にあります。ここではユピテルは白鳥に姿を変えています。
コレッジョは20年ほどの短い間に、三つのモニュメンタルなフレスコの天井壁画、聖母子像を中心とした油彩の宗教画、そして「ユピテルの愛」の連作に代表される神話画・寓意画、とジャンルの異なる幅広い作品を残しています。
彼が残した作品は80点ほどあるそうです。
まだ見られていない作品が多く残っているので、これからも欧米の美術館で彼の作品に出会えるのが楽しみです。