la-musicaの美の採掘坑

自然、美術、音楽、訪れた場所などについて、「スゴイ!」「きれいだな...」「いいね」と感じたものごとを書き留めています。皆さんの心に留まる記事がひとつでもあればうれしいです。

クレータ島~父と息子、父と娘のギリシャ神話 (永遠の場所 8)

ドイツの児童文学作家ハンス・バウマンの「イーカロスのつばさ」という本を読みました。

イーカロスのつばさ

ギリシャ神話のイーカロスを主人公とした物語で、イーカロスの父ダイダロス、クレータのミーノース王とその娘アリアドネ、怪物ミーノータウロスとアテーナイの王子テーセウスが登場し、クレータのミーノータウロスの迷宮とイーカロスの失墜の神話が展開します。

イーカロスというと、鳥の羽を蝋で固めた翼で幽閉から逃れたものの、父親の警告を忘れて高く飛びすぎ、太陽の熱で蝋を溶かされ墜落死する、思慮の浅い青年に描かれるのが常ですが、この物語では、自由に向かって飛び続けて最後は墜落して自然と一体になる純真で純粋な青年として描かれています。

僕には、この自由への飛翔は、ミーノース王による幽閉からの脱出、従兄のタロスや友人たちへ向かっての帰還に加えて、父親ダイダロスのくびきから自由になるという意味もあったように思います。

ダイダロスとイーカロスの父子はお互いを大切に思っているのですが、ミーノータウロスを閉じ込める迷宮を造った発明家のダイダロスが息子に自分の跡を継がせたいのに対して、大工仕事や発明よりも自然と親しむ方が好きな心優しいイーカロスは、発明家である一方で権力欲が強く権謀術数も巧みなに父親についていけなかったのだと感じます。

イーカロスはダイダロスと共に囚われとなった時ほど父親とのつながりを感じたことはなく、一緒にいて心が安らぎ父を信頼することができたのです。

物語の最後、シチリアに逃れて生き延び、ミーノース王への復讐を果たしたダイダロスは、「むすこをさがさなくてはならない、もう一刻もぐずぐずしてはいられないのだ、シシリアの海岸からイーカリオス海までは遠いのだから」と言って嵐の海にひとり乗り出していきます。ハンス・バウマンによる父と息子の物語はこのようにして終わります。

「イーカロスのつばさ」はもともと少年少女向けに出版された本ですが、大人が読んでもずっしりとした読後感のある素晴らしい作品です。

残念ながら今は絶版になっていますが、近くの図書館には必ず所蔵されていると思います。

♪♪♪♪♪♪

ドイツに赴任した年の夏、妻とクレータ島で夏休みを過ごしました。

ドイツのAldianaというリゾートクラブのクレータ島のリゾートでの一週間でした。

リゾートは島の北岸東側、アギオス・ニコラオスとシティアの中間地点のMochlosという場所にあります。

プライベート・ビーチがあり、毎日色々なアトラクションもあって、リゾート内でのんびり過ごしました。

クレタ島ビーチ

滞在中に、一日レンタカーをして、マリア遺跡、クノッソス宮殿イラクリオンの方まで足をのばしました。

クレタ島地図

朝8時半過ぎに出発、まずはマリア遺跡に向かいます。

10時にマリア遺跡に到着。クノッソス、フェストスと共にミノア文明の3大宮殿の一つです。

クノッソスとは違い、発掘されたままで残されていて、腰ぐらいの高さの石壁に仕切られた赤土の床の部屋の跡が沢山見て取れました。

先を急ぐので10時45分には出発。クノッソスには11時半に到着しました。

クノッソスはクレータ島の中心都市イラクリオンから南南東に5~6kmのところにあります。

20世紀のはじめ英国の考古学者サー・アーサー・エヴァンズによって発掘され、一部が修復・復元されています。

西翼3階建て、東翼5階建て、部屋数1,200といわれる大規模な宮殿跡です。

宮殿の構造は複雑で、ここで迷宮の伝説が生まれたことが頷けるものです。

クノッソス宮殿跡全景

クレータ観光のハイライトですので観光客でいっぱい、様々な国の言葉が飛び交っていました。

我々もガイドブック、地図を片手に歩き回りました。

宮殿は、中央中庭をはさんで、西翼に玉座の間や聖堂など国務・宗教行事用の部屋が連なる区画が、東翼にイルカのフレスコがある女王の間や浴室などの居室がある王家のプライベートな生活区画に分けられます。

女王の間イルカ壁画

コンクリートで復元され色塗られた柱や色鮮やかに複製されたフレスコ壁画は、「こうであったんだろう」とイメージを持たせるには役立つのですが、ちょっとテーマパーク的でなんとなくしっくりこない気もしました。

とはいえ、広大な敷地の複雑な遺跡を歩き回ることによって、高層の複雑な構造で1,000室以上が配置された宮殿が3600年も前にあったんだということが感じられて感慨深い気持ちになりました。

この後訪れたイラクリオン考古学博物館で、有名な「パリジェンヌ」や「雄牛跳び」のフレスコ画、「百合の王子」のレリーフなど、クノッソスの発掘品のオリジナルに対面して、ミノーア文明のレベルの高さを改めて認識しました。

イラクリオンを出発したのは17時半過ぎ、リゾートクラブに戻ったのは20時前。充実した一日でした。

♪♪♪♪♪♪

妻とクレータ島に行くことを知った時、義父がとても喜んでくれました。

妻がまだ幼い頃、義父が夕食時に娘二人(妻と妻の姉)を前にしてギリシャ神話のイーカロスの話をしたのだそうです。

その時、娘達が目を輝かせ、食事を中断して遅くまで、父親の話すクノッソスの迷宮とイーカロスのつばさの物語をじっと聞き入っていた、その輝いた目が素晴らしく美しかった、と教えてもらいました。

クレータ島は妻にとっても義父にとっても特別な島なのです。

自分も娘や息子と共有できる特別な場所を幾つか持つことができればと思います。

妻の実家には、今でもハンス・バウマン作の「イーカロスのつばさ」の本があります。