la-musicaの美の採掘坑

自然、美術、音楽、訪れた場所などについて、「スゴイ!」「きれいだな...」「いいね」と感じたものごとを書き留めています。皆さんの心に留まる記事がひとつでもあればうれしいです。

ヴァルトミュラーの「窓辺の若い農婦と三人の子供達」 (絵の採掘坑 1)

今日は好きな絵について。

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窓辺で父親の帰りを待っていたのでしょう。こちらへ向かってくる父親を見つけ、幼い子供が母親を見上げて話しかけています。

母親は既に夫の姿に気づいていて、正面を見つめて優しく微笑んでいる。反対側の窓辺には、お兄ちゃんが指をくわえた赤ん坊を抱えてうれしそうに前を見つめています。

フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラーの「窓辺の若い農婦と三人の子供達」の前に立つと、自分が子供達の父親で四人から「おかえりなさい」と声をかけられているような錯覚を起こし、とても幸せな気分にさせられます。

この絵は画面が木の窓枠で縁取られているため、窓を通して四人と向かい合っているように感じるからでしょうか。

ヴァルトミュラーは19世紀前半、ビーダーマイヤー時代に活躍したオーストリアの画家です。

ビーダーマイヤー時代というのは、1815年のウィーン会議と1848年の3月革命の間の時期にあたります。

この時代の芸術は「小市民的」と表現されますが、英雄的なものには欠けていて、幾分感傷的で、ごく普通の中流階級の生活を反映したものでした。

この時期の絵画としては、肖像画、風景画と風俗画(家族画)が中心ですが、ヴァルトミュラーはこのビーダーマイヤー美術を

代表する画家でした。彼は肖像画を数多く描いていますが、僕は彼の風俗画、特に子供を描いた作品が大好きです。

この「窓辺の若い農婦と三人の子供達」の他にも、授業が終わって校舎から出てきた子供達の思い思いの表情を描いた

「学校の後」や、山の小道を歩いてくる少女と花を持って木陰に隠れる少年を描いた「待ち伏せ」など、普通の生活の中にある幸せな瞬間を暖かい視線で描いているところが気に入っています。

この微笑ましい絵は、ミュンヘンのノイエ・ピナコテークにあります。

ここには18世紀半ばから20世紀はじめにいたる約5,000点の美術品を所蔵しており、そのうち約550点が展示されています。

このノイエ・ピナコテークには、お隣のアルテ・ピナコテークにおけるデューラー「自画像」「四使徒」やアルトドルファー「イッソスの戦い」のような目玉作品はありません。

それでも18世紀中から20世紀初頭までのドイツ美術の流れを概観するには良い場所ですし、ドイツ絵画以外にもクリムト、ホードラーやクノップフ、フランス印象派の絵もあり、小品ながら魅力的な作品がたくさんあります。

大学生の時に初めてこの美術館を訪れた時から、僕はこのヴァルトミュラーの絵の魅力に取り憑かれてしまいました。

子供達の後ろに立ち、陰の中で微かに歯を見せて微笑む若い母親の姿は聖母のようです。

そして、三人の子供達(男の子、男の子、女の子?)も皆明るく健康そう。この絵の前に立つと本当に幸せな気持ちになります。

その後もミュンヘンに来る機会があると、この絵と対面するために必ずノイエ・ピナコテークに足を運ぶようになり、結果的に他の絵にも親しむようになりました。

今小4の娘が一歳半の頃、画集のこの絵を見て、画面中央の若い母親を「ママ」と言い、画面右側で母親を見上げる二番目の子(多分男の子)を指して自分だと主張していました。

当時は帰宅時に「帰る」メールを送っておくと、ドアを開けると妻と娘が二人で玄関先の階段に腰掛けて笑顔で迎えてくれたものです。

ヴァルトミュラーの絵は、このような日常の幸せについて気付かせてくれます。

Ferdinand Georg Waldmueller (1793-1865)

■Junge Baeuerin mit drei Kindern im Fenster(窓辺の若い農婦と三人の子供達), 1840 (87.5 x 65.5 cm)

 Muenchen, Bayerische Staatsgemaeldesammlungen Neue Pinakothek

■Nach der Shule(学校の後), 1841 (75 x 62 cm)

 Berlin, Statliche Museen zu Berlin Nationalgalerie

■Die Erwartete(待ち伏せ), 1850 (81.1 x 63.2 cm)

 Muenchen, Bayerische Staatsgemaeldesammlungen Neue Pinakothek