la-musicaの美の採掘坑

自然、美術、音楽、訪れた場所などについて、「スゴイ!」「きれいだな...」「いいね」と感じたものごとを書き留めています。皆さんの心に留まる記事がひとつでもあればうれしいです。

ユーゲン王子の「古城」 (絵の採掘坑2)

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この絵は、スウェーデン王室のユーゲン王子(Prins Eugen)が描いた「古城」という作品です。

正方形のキャンバスに大きく描かれているのは、緑の丘に建つレンガ屋根の建物、抜けるような青空、そしてその間に広がる雲。

この絵の主題は雲であり、青空に放射状にさっと描かれた巻雲とその下に大きく広がる積み雲が緑の丘と反応し合って爽やかな夏の日の雰囲気を作り出しています。

丘の上に建つ「古城」はむしろ王室の夏の別荘という風に見えます。

ユーゲン王子は19世紀末から20世紀前半にかけて活躍したスウェーデンの画家で、風景画家として有名です。

代表作としては今回紹介している「古城」や「雲」などがあります。彼は美術収集家でもあり、同時代の自国の若い画家たちの作品を買い上げ援助しました。

王子が住んでいたストックホルムの邸宅が美術館として公開されています。

そこでは、上記の「古城」「雲」等の彼の代表作や、彼が収集した同時代の画家の作品(主に1910年代20年代)が展示されています。

美術館は王室の狩猟場であったユーロゴーダン地区のヴァルデマーシュッデ(Waldmarsudde)という場所にあります。

緑に囲まれサルツショーン湖に臨むとても気持ちの良いところです。回りは公園で、美術館の庭にはフランス、スウェーデンの作家による彫刻が置かれていました。

この風景画と出会ったのは、1995年10月、仕事で訪れたストックホルムで週末を過ごした時です。

紅葉の季節、天気に恵まれ快晴でしたが、その分寒さも厳しく、コートに手袋という完全防寒でメーラレン湖とバルト海に囲まれた“水の上に浮かぶ街”を散策しました。

ガムラ・スタン(旧市街)の王宮から、入り江を挟んだ対岸に国立美術館があります。

僕が訪れたのは、19世紀末に活躍した北欧の画家達の作品を集めた「北方の光」と題する特別展が始まったばかりの時でした。

北欧諸国の美術史において、19世紀の最後の二十年は、伝統的なアカデミズムに反発した若い画家達が自分達の表現を始めた時期であったそうです。

展覧会のテーマは「人」と「風景」。身近な家族や友人そして風景が様々に描かれていました。

大変な盛況でしたが、これは開催二日目ということ以上に内容の充実ぶりがあったと思います。

北欧の画家はムンクしか知らなかった僕は、この展覧会で北欧の代表的な画家の作品に一通り触れることができました。

2008年の秋に西洋美術館で展覧会が開催されたデンマークハンマースホイ(Vilhelm Hammershoi)の絵に初めてふれたのもこの特別展でした。

この作品は、1893年、王子がスンドバイホルムというストックホルム郊外のメーラレン湖沿いの岬で夏を過ごした際に描かれました。

最初のうち王子は描くモチーフを見つけられずにいたのですが、次第に雲に興味を持ち始めたのだそうです。

落ち着きのない雲の動きと打ち捨てられた城の組み合わせが、彼に何か不安で寂しく見捨てられたものを表現したい気持ちにさせ、その結果この絵が生まれました。

僕にとっては北の国の海辺での爽やかな夏の一場面。

観ていると、北の陽光の下でひんやりとそよぐ風が肌に触れる気がして、心地よい気分にさせられます。

百以上ある展示の中で最も僕の印象に残った作品でした。

Prins Eugen (1865-1947)

Det gamla slottet (古城), 1893 (101 x 97 cm)