グリエール/コロラトゥーラソプラノと管弦楽のための協奏曲 (歌の採掘坑 17)
今日は、ジャズ・スタンダード以外の好きな曲の中からヴォカリーズの曲を一曲。
もう十五年以上も前のことですが、知人からナタリー・デセイというソプラノ歌手の「Vocalises」というCDをもらいました。
ナタリー・デセイという歌手も初めてでしたし、収録されている曲も、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」、ヨハン・シュトラウスの「春の声」以外は初めて聴く曲ばかりでした。
1996/1997年に録音され1998年にリリースされたこのアルバムは、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」で始まりヨハン・シュトラウスの「春の声」で終わります。
ナタリー・デセイはロシア、フランス、スペイン、オーストリア、ベルギーと様々な国の作曲家による魅力的なコロラトゥーラ・ソプラノの曲を歌っています。
一曲目から彼女の透き通って明るく、伸びやかな歌声に聴き惚れてしまいます。
高音でのトリルも非常に軽やか。澄み切った声に心が洗われました。
ラフマニノフの「ヴォカリーズ」に続くアリャビエフの「ナイチンゲール」やドリーブの「カディスの娘たち」のような情熱的な曲も良いのですが、その時に彼女のアルバムで初めて知った曲の中で最も惹かれたのはグリエールによる『コロラトゥーラソプラノと管弦楽のための協奏曲』でした。
グリエールは、ロシア帝国末期からソ連建国期に活躍した作曲家で、スターリンの時代も生き延び81歳の長寿を全うしています。
『コロラトゥーラソプラノと管弦楽のための協奏曲』は第二次世界大戦中の1942年から43年にかけて書かれた曲です。
題名の通り、オーケストラと女声(コロラトゥーラソプラノ)のヴォカリーズとによる、二楽章から成る協奏曲です。
第一楽章 Andante へ短調はとても美しくメランコリックです。
ソプラノは協奏曲の中で美しい主旋律を歌い奏でる楽器であり、楽章の半ばでは一時弦楽に主旋律を譲りクラリネットとともにオブリガードで絡み合います。
最後は導入部と同じ弦楽の旋律が流れ、途中からソプラノが旋律を引き継ぎ、やがて静かに終わります。
第二楽章 Allegro へ長調は一転して、ワルツのリズムの軽やかで明るい曲調です。
ソプラノの旋律は春の訪れを喜ぶ小鳥の声のように軽やか。
デセイは高音でトリル、スタッカート、レガート、テヌートを自由自在に操り、天空を軽やかに舞い最後は頂きまで駆け上ります。
美しくて、何度聴いても心が動かされ、ため息が漏れてしまう、旋律、歌声です。
ナタリー・デセイはその後喉を痛めて手術を繰り返し、2005年に復帰したもののオペラで歌うことには限界を感じ、2013年10月にオペラからの引退を発表。
残念ながら、アルバム「Vocalises」に収められていた、軽やかに舞うコロラトゥーラ・ソプラノを聴くことはもうできません。
ただ、その後はクラシック・オペラ以外のポピュラー・ミュージックのアルバムを発表しています。
2013年リリースの「ミシェル・ルグランをうたう」では、ミシェル・ルグランが手掛けた映画音楽の曲をナタリー・デセイがルグランの伴奏で、数曲はデュエットで歌っています。
気心の知れたフランス人同士で楽しみながら作ったという感じの素敵なシャンソン・アルバムです。
ジャズのスタンダードにもなっている「What Are You Doing The Rest Of Your Life?」や「The Summer Knows」などの英語の曲も入っていますが、どちらかというとリエゾンが心地よい「Chanson de Delphine」、「Le cinema」ほかのフランス語の曲の方が雰囲気があって好きです。
声の色も雰囲気も全く異なる2枚のアルバムを聴き比べてみて下さい。