バッハ~ゴルトベルク変奏曲 (歌の採掘坑 23)
5月28日にミューザ川崎シンフォニーホールでの"MUZAアコースティック・ライブ"で、マルティン・シュタットフェルトのバッハの演奏を聴いてきました。
曲目はイタリア協奏曲とゴルトベルク変奏曲。
バッハのゴルトベルク変奏曲は、以前からグレン・グールドの1981年録音のCDで親しんできました。
多くのピアニストがこの曲を録音していますが、グールドの他は、キース・ジャレットのチェンバロでの演奏と、今回聴きに行ったシュタットフェルトのピアノ演奏ぐらいしか聴いていません。
1980年生まれのシュタットフェルトは、2002年ライプツィヒでのバッハ国際コンクールで史上最年少で優勝し、その2年後にバッハの「ゴルトベルク変奏曲」でCDデビューしました。
1997年、17歳の時にこの作品の虜になり、以来中心レパートリーの一つとしてきたそうです。
今回シュタットフェルトが来日しゴルトベルク変奏曲を弾くというので楽しみにしていました。
バッハは1742年にこの変奏曲を「クラヴィーア練習曲集」第4部として出版しました。
バッハ自身は"2段鍵盤のチェンバロのためのアリアと様々な変奏"との表題を付けましたが、不眠症に悩むカイザーリンク伯爵のために、彼に仕えたクラヴィーア奏者ゴルトベルクの演奏用としてバッハが作曲したという逸話から「ゴルトベルク変奏曲」という通称で良く知られています。
曲は、32小節から成るアリアを最初と最後に配置し、その間にアリアの32音の低音主題に基づく30の変奏が展開され、合計32曲で構成されています。
30の変奏には仕掛けがあり、3の倍数の変奏はカノンで、第3変奏の同音(1度)のカノンから第27変奏の9度のカノンまで順次音程が広がるようになっています。
そして、第30変奏はカノンではなく、バスの上に二つの民謡を載せた"クオドリベット"というスタイルの曲です。
全曲は第16変奏を境に前半/後半に分けられ、「序曲」と題された第16変奏はフランス風序曲で、後半の始まりを告げます。
自分の理解のために全体構成を以下の表にまとめてみました。
演奏会当日は、全席自由席のため早めにホールに行き、ステージに近い、ホールに向かって左側の2列目に席を確保しました。
演奏中の手の動き、足の動きも良く見える場所で視覚的にも楽しめる席でした。
途中休憩なしの演奏会で、まずは「イタリア協奏曲」。
ゴルトベルク変奏曲演奏前の手慣らしと言ってしまうとよくないのかもしれませんが、第3楽章のPrestoなどものすごい疾走感でとばしていました。
そして「ゴルトベルク変奏曲」。
緩急・強弱メリハリのある、ダイナミック且つ繊細な演奏で、息を凝らして聴き入った一時間強でした。
ホール内はピアノ以外の音は聞こえず、後半へ進むにつれて張りつめた空気が強くなっていく感じがしました。
CDの演奏を通じて、右手のパートがオクターブ上を弾いたり、左手のパートを高音域で弾いたりといった彼の変奏は知っていました。
しかしながら、実際の演奏でそれを聴覚的且つ視覚的に確認できたのは刺激的な体験でした。
両手交差も頻繁で、左右のパートの高低が逆になった時の音の響きの新鮮なこと。両手を上下に重ねて弾く時の音の力強さ。
速い演奏では指の動きに目が追い付かず、ペダルを踏み替える小刻みな足の動きも目に留まらぬ速さでした。
素晴らしい演奏でした。
ただ残念だったのは観客が少なかったこと。
総座席数が1997席の大きなホールですが、埋っていたのは一階と二階正面の席ぐらいだったように思います。
シュタットフェルトも舞台に現れて観客席を見た時に一瞬驚き落胆したのではないでしょうか。
アンコールは、モーツァルトが8歳の時に書いた曲をまとめた「ロンドン・スケッチブック」という作品集から、ソナタ変ロ長調第2楽章アダージョ。
シンプルですが、三連符のリズムが心地よい、優しくて心が洗われる、天井の音楽でした。