帰省 (歌の採掘坑 21)
僕の娘も歌が好きです。
自分の子供の頃の音楽体験を振り返ってみると、大学生になるまではメロディ偏重で過ごしてきていて、歌の歌詞を噛みしめたという記憶はほとんどありません。
一方、娘は小さい頃から言葉に対する感受性が強く、いつも歌詞を意識して歌を聴いているようです。
小学校一年生の時には、アンジェラ・アキの「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」に強く反応しました。
基本的には前向きな元気ソングが好き。最近よく聴いているのはクリス・ハートの「Heart Song」「Heart Song II」です。
娘は結構古い曲にも親しんでいます。
キャンプや帰省に車で出かける際に、車中で流れる音楽が僕や妻のCDからのものであったりするのが影響しています。
クイーン、ビリー・ジョエル等の洋楽や松田聖子も好きですが、妻の持っていた「Singles 2000」というアルバムを通じて慣れ親しんだ中島みゆきは特別な存在のようです。
以前から「糸」は娘の大好きな曲でした。
今から2年以上前、2012年の年も押し詰まった三十日の朝、NHKのラジオ番組「なぎら健壱 あの頃のフォークが聞きたい」で、 安田祥子&由紀さおり姉妹の歌う、中島みゆきの『帰省』がかかりました。
その日曜日はちょうど車で妻の実家に帰省する予定の日で、その時はまだまどろみつつラジオを聴いていました。
我が家ではラジオを目覚まし代わりに使っているのですが、ラジオからピアノの伴奏による安田シスターズの心地よい歌声が流れ、その心に沁みる歌詞の内容に聴き入りました。
娘も黙って聴き入っていました。
”遠い国の客には笑われるけれど”という導入から、”押し合わなければ電車にも乗れず、 肩を張り肘を張り押しのけ合う”都会の様子が歌われ、そしてサビからは、故郷で人の温もりに触れて元気さを取り戻し、都会の生活に戻って心の動きが下記のように歌われます。
”けれど年に2回 8月と1月 人ははにかんで道を譲る 故郷からの帰り 束の間 人を信じたら もう半年がんばれる”
この曲が収録されているのは「由紀さおり&安田祥子~歌・うた・唄Vol.5 あしたの想い出」(2000年リリース)。
どうしても又聴きたくて、帰省の準備の合間にネットで調べてCDの注文を入れました。
このアルバムに収録された12曲の歌を聴いていると、温かさ、優しさ、そして懐かしさで包み込まれる感じがします。
娘が”フワッとした気持ちになる”と表現したのは同じように感じたからなのかもしれません。
編曲・サウンドプロデューサーは、西田敏行の「もしもピアノが弾けたなら」をはじめ数々の名曲を作曲した坂田晃一。
姉妹一人一人の歌声、二人のハーモニー、そしてピアノの伴奏もとてもよいです。
中島みゆきの『帰省』、安田シスターズの共作による1曲以外の10曲も、それぞれ著名なシンガー・ソング・ライターによる作品です。
1曲目の「Beautiful Flower」(作詞・作曲:加藤登紀子)から最後の「ぼくをだいて」(作詞:はたよしこ、作曲:小室等)の全12曲でこのアルバムの温かくて優しく懐かしい世界が形作られているように感じます。
娘は『帰省』が一番好きと言っていますが、どの曲も甲乙つけがたく、是非全曲を通して聴いてみて頂きたいと思います。
このアルバムのリリースから2カ月後、中島みゆき自身もアルバム「短篇集」でこの『帰省』をセルフカバーで歌っています。