ヘールトヘン・トット・シント・ヤンス -2 (絵の採掘坑 8)
ヘールトヘン・トット・シント・ヤンスの数少ない作品は、彼の活躍の地であったオランダ、オーストリア、ドイツ、イギリス、フランス、スイス他、欧州各地に散らばっています。
ここで「ヘールトヘン・トット・シント・ヤンスを巡る」鑑賞ツアーをシミュレーションしてみたいと思います。
まずはロンドンに入りましょう。
■ロンドン(イギリス):ナショナル・ギャラリー
「夜の降誕」 (34 x 25 cm)
ロンドンのナショナル・ギャラリーで先に紹介した「夜の降誕」を見ます。
もちろん、ここは名画の宝庫ですので、他の素晴らしい絵画を鑑賞する時間を十分とられることをお勧めします。
(我々はロンドン2泊3日の旅で3日間ともナショナル・ギャラリーに行ってしまいました)。
次にヘールトヘンが生まれ活躍したオランダを訪ねます。ロッテルダムに入り、ユトレヒトを経由してアムステルダムに入ります。
■ロッテルダム(オランダ):ボイマンス・フォン・ブーニンヘン美術館
「ロザリオの聖母」 (26.8 x 20.5 cm)
同じく前回紹介した作品です。
この美術館では他に、ブリューゲルの「バベルの塔」とボスの作品(「カナの婚礼」「幼子キリストを背負う聖クリストフォロス」「放蕩息子の帰還」)が見逃せません。
ちなみに通常展示はされていませんが、フェルメールの贋作として有名になってしまったファン・メーヘレン作「エマオのキリスト」がこの美術館に所蔵されています(我々は特別展でこの作品を観る機会がありました)。
■ユトレヒト(オランダ):国立カテリーナ修道会美術館
「悲しみの人」
残念ながら、この美術館を訪問する機会が持てず、我々はまだ「悲しみの人」に対面できていません。
ユトレヒトは、ロッテルダムからアムステルダムへ向かう途中に立ち寄れます。
墓から立ち上がったキリストは、全身から血を流しながら左手で十字架を抱えています。
聖マリアは憔悴しきっていて、血の涙が出てくるのではないかと思われるような泣き腫らした目で我が子を見上げています。
金地を使ったこの作品は、礼拝の対象としてキリストを描いた祈念画という形式のものです。構図が当時としてはなかなか斬新的です。
「聖なる親族(Holy Kinship)」 (137 x 105 cm)
幼子キリストを抱く聖母マリアと父ヨセフ、祖母アンナと祖父ヨアキム、マリアの従姉妹のエリザベツと幼子の洗礼者ヨハネ、その他にマリアの姉妹とその家族達までが描かれたカラフルな集団画です。
聖家族は、画家が生きた時代のネーデルランドの教会の中に、皆穏やかな表情をして佇んでいます。
「東方三賢王(マギ)の礼拝」(90 x 70 cm)
東方の三賢王(三博士)達が星に導かれてベツレヘムの幼子の所へ訪れる「マギの礼拝」は、新約聖書のテーマの中でも最もポピュラーな題材のひとつではないでしょうか。
ヘールトヘンも何枚か描いたようで、アムステルダムの作品のほかにヴィンタートゥアとプラハにも「マギの礼拝」があります。アムステルダムの絵が一番小さいものです。
幼子イエスは、手足の感じが「ロザリオの聖母」(ロッテルダム)のイエスと似ていますが、「ロザリオの聖母」のやんちゃそうなイエスに対して、こちらは少し落ち着いた感じに見えます。
聖母マリアもトレードマークの卵型の顔が「ロザリオの聖母」そっくりです。
アムステルダムまで来たのでヘールトヘンが活躍したハールレムまで足を伸ばします。すぐ近くです。
ここには肖像画家フランス・ハルスの名を冠した美術館がありますので訪ねると良いです。
次の訪問先はベルリンです。
■ベルリン(ドイツ):絵画館
「荒野の洗礼者ヨハネ」 (42 x 28 cm)
風景画としても素晴らしい「荒野の洗礼者ヨハネ」をここで鑑賞します。ベルリン絵画館とウィーン美術史美術館は北方ルネサンス絵画の宝庫です。
このベルリン絵画館では、ファン・エイクの「教会の聖母」、ペトルス・クリストゥスの「若い女性の肖像」、ヒューホ・ファン・デル・フースの「羊飼いの礼拝」と「マギの礼拝」、ボスの「パトモス島の福音書記者ヨハネ」、ピーテル・ブリューゲルの「ネーデルランドの諺」、その他デューラー、クラナッハ、ホルバイン等、見逃せない作品がたくさんあります。
そして最後の訪問地、ウィーンへ向かいます。
■ウィーン(オーストリア):美術史美術館
「聖ヨハネの遺骨の焼却」 (172 x 139 cm)
「キリストの死への哀悼」(175 x 139 cm)
ヘールトヘンの紹介のところで触れた、聖ヨハネ騎士団礼拝堂の三連祭壇画の右翼に描かれていたものです。
「聖ヨハネの遺骨の焼却」は外面に描かれていたもので、テーマは背教者ユリアヌスによって聖ヨハネ信仰を抑制する目的で行われた洗礼者ヨハネの骨の償却です。
異なる時代の出来事がひとつの画面にうまくおさめられており、各々の人物の個性が描きこまれた集団肖像画ですが、ベルリンの「荒野の洗礼者ヨハネ」と同様、風景が活き活きと描かれています。
右翼内面に描かれた「キリストの死への哀悼」からは、聖母や聖人たちの深い悲しみが伝わってきます。キリストの遺骸を軸に聖母と3人のマリア達が十字架を連想させるように配されています。
美術史美術館でまずおさえるべきは、ピーテル・ブリューゲルのコレクションです。「雪中の狩人」「農民の婚宴」の他10点以上、油彩画の三分の一がここに所蔵されています。
その他、ネーデルランド絵画ではウェイデン、フース、ボス、パティニール、ドイツ絵画ではデューラー、アルトドルファー、クラナッハの作品に出会えますし、イタリア・ルネサンス絵画も、ティチアーノ、コレッジオ、パルミジャニーノなど見所がたくさんです。
以上、ヘールトヘンの作品を堪能するヨーロッパ・ツアーを考えてみましたが、作品の重要度と経路の関係から外してしまった美術館がありますので、参考までに挙げておきます。
■パリ(フランス):ルーブル美術館
「ラザロの蘇生」
「東方三賢王(マギ)の礼拝」 (111 x 69 cm)
含めるならベルリンとウィーンの間でしょうか。
■ヴィンタートゥア(スイス):オスカー・ラインハルト・コレクション
「東方三賢王(マギ)の礼拝」(135 x 101 cm)
スイスを旅行される際に訪問されることをお勧めします。