北方ルネサンスの魅力 ~ 上部ライン地方の画家 「楽園の小さな庭」 (絵の採掘坑 5)
イタリア旅行の最大の楽しみ(食を除く...)はルネサンス美術に浸ることにありますが、同様にドイツ・ベネルクスを旅する魅力のひとつ(僕にとっては一番の魅力)に北方ルネサンス美術があります。
一般的に「北方ルネサンス」とは、15世紀から16世紀にかけてのアルプス以北(ネーデルランド、ドイツ、フランス)の美術を指し、活躍した画家としては、ヤン・ファン・エイク、ファン・デル・ウェイデン、ボス、デューラー、クラナッハ、グリューネヴァルト、ブリューゲルなどがいます。
宗教改革の時代にも当たるので、どちらかというと暗く陰気な絵が多いという印象があるかもしれません。
でもそれは一面的なもので、実は、精緻で写実的な描写、透明感のある色彩、表現主義・幻想主義的なイメージなどたくさんの魅力があります。
絵画のジャンル的にも、宗教画のみならず、肖像画や風景画、更には幻想画まで多岐にわたっています。
上記に挙げた画家以外にも個性的な画家が多数いますし、名前が知られず代表作や活動地にちなんだ仮名で呼ばれる逸名画家のことも忘れることができません。
「北方ルネサンス」の画家とその作品の魅力については、これから度々書くつもりです。
今日は、名前の知られていない画家の作品を取り上げてみます。
ドイツ・フランクフルトのシュテーデル美術研究所にある「楽園の小さな庭」は、1410~1420年頃に描かれたものです。「上部ライン地方の画家」によるものとされています。
この時期の美術様式は「国際ゴシック」と呼ばれています。
この様式は特定の場所で成立したものではなく、相互交流を持った欧州の幾つかの都市でほぼ同時に起こったものです。
様式の特徴は、衣装などの輪郭線の柔らかさや貴族趣味を繁栄した優雅な形態です。
ドイツでは、まずプラハがその中心となり、その後パリやディジョンの影響も受けながら普及していきました。
ケルンでは「聖女ヴェロニカの画家」を代表に匿名の画家たちが活躍しましたが、今回の絵の画家はライン川の上流地方の画家です。
塀に囲まれた庭の中心には読書する聖母マリアが座り、回りには聖人達が思い思いに寛いでいます。
聖母の前の芝生の上には幼子イエスが座り、音楽の守護聖人である聖チェチリアの差し出す楽器を無邪気に弾いて遊んでいます。
大天使ミカエルは頬杖をつき、退治した悪魔を伴い草花の上に腰を下ろしていますし、聖ゲオルギウスも仰向けにひっくり返った竜を連れてミカエルと話しているようです。
悪魔も竜も恐ろしいというよりかわいいと言った方がよく、登場人物は皆穏やかで幸せな気分の中にいます。
残る三人は、聖ドロテア、聖バルバラ、そして聖セバステイアヌスです。
聖人たちは皆丸い顔、小さな目鼻だちで、素朴で庶民的な雰囲気で描かれています。
塀や机の遠近法の表現はまだ稚拙ですが、色彩は赤・青・黄・緑いずれも鮮やかで、女性の衣服や塀・机の白がその中で良いアクセントとなって調和しています。
机の上にのっている薄いヴェールの白の感じ、とても良いですよね。
26.3 x 33.4 cmの小品で、「自宅に飾りたい絵」でアンケートを取れば上位に来そうな絵です。
ところで、この絵には24種類の草花と12種類の鳥が描かれているそうです。数えられますか?
Oberrheinischer Meister "Paradiesgaertlein", 1410-1420 (26.3 x 33.4cm)
Frankfurt am Main, Staedelsches Kunstinstitut
「楽園の小さな庭」