la-musicaの美の採掘坑

自然、美術、音楽、訪れた場所などについて、「スゴイ!」「きれいだな...」「いいね」と感じたものごとを書き留めています。皆さんの心に留まる記事がひとつでもあればうれしいです。

ベルリン 2000年秋冬 (永遠の場所 2)

2000年10月。15年ぶりにベルリン訪問。

ベルリンの壁が崩壊した89年以降のベルリンの変化を見たいと思いながら既に長い時が過ぎていました。

85年訪問時にモノトーンの景色でしか知らなかったウンター・デン・リンデンやフリードリヒ通りも、ホテルやデパートの並ぶ賑やかな通りに。

両通りが交わる所にあるホテル・ウンター・デン・リンデンに滞在。部屋はコンパクトながらも設備は十分、料金もそこそこな上ロケーションはベストでした。(このホテル、2006年に倒壊され現在は存在しないようです)

Sバーンのフリードリヒ通り駅もアーケードに色々な店が入るりっぱな駅で、15年前に非常に緊張しながら東ベルリンのSバーンに乗った時の風景と全く違います。

かつて緊張しながら東西ドイツ/ベルリン国境を越えたチェックポイント・チャーリーへ向かいました。

かつての検問所の建物は壁とともに撤去されていて、跡地に箱のような小屋と標識が建てられているのが目に入ります。

出張 016

出張 015

検問所跡地のすぐ脇にはチェックポイント・チャーリー博物館があります。

車、気球、トンネルなど、東ドイツから脱出しようと試みた様々な手段が展示されていて、冷戦/ドイツ分断時代の緊張が蘇ってきます。

博物館からは、検問所跡地に監視塔の建物の残骸のようなものが眺められました。

出張 017

博物館を出て、かつて境界線であった場所を渡ります。昔の緩衝地帯にあたる場所ではソビエト/共産国の軍帽や壁の石などを売る闇土産物屋が風呂敷を広げていました。

出張 018

ウンター・デン・リンデンを西に向かいブランデンブルグ門へ。車や人々が門の下を通り過ぎています。

修復をしているのか足場が組まれていましたが、初めて門の下をくぐりました。

出張 038

今回は、仕事でドイツへ長期出張中に、週末を活用しての訪問。12月にも再訪の機会を得ました。

日中は美術館、夜はジャズ・クラブかベルリン・フィルハーモニーへ。

ベルリン絵画館はポツダム広場の西、ティーアガルテン地区の文化フォーラムにあり、オールドマスターの作品が堪能できます。

第二次大戦時の戦禍からの疎開と東西分断によって東西ベルリンに分散していた作品群が、ドイツ統一に伴い1998年新設のこの絵画館にまとめられました。

この時は、ポライウオーロの「若い女性の横顔」「受胎告知」、ベリーニの「キリストの復活」、フィリッピーノ・リッピの「聖母子像」など、イタリア・ルネッサンス絵画を集中して鑑賞。

(ここには2004年5月に妻と再訪。ヤン・ファン・エイク「教会の聖母子」、ペトルス・クリストゥス「若い女の肖像」、フーゴー・ファン・デル・グース「羊飼いの礼拝」などの北方ルネサンス絵画を堪能しました。)

ミース・ファン・デル・ローエ設計の新国立美術館は20世紀の画家の名作を収蔵。

マックス・ベックマンの「シエスタ」が構図がしっかりしていてタッチも力強く印象に残りました。

「誕生」と「死」という作品もそれぞれ独立してみても見ごたえがあります。

旧東ベルリンの博物館島にあるペルガモン博物館にも15年ぶりに再訪。

12月の訪問時は、シャルロッテンブルク宮殿方面のエジプト博物館で「ネフェルティティの胸像」、ベルクグリューン・コレクションでピカソの作品を鑑賞。

出張 073

一方、夜はザヴィニー広場の近くにあるジャズ・クラブA-Trainへ。

10月はポーランド・クラコフ出身のジャズ・ボーカリスト Marek Balata。東欧のボビー・マクファーリンと呼ばれる彼のスキャットは一種独特。

我々が慣れ親しんだジャズのスキャットに、日本の何々節のような太く力の入った声や苦しそうなハーハーいう声を入り混ぜ、ジャズと民俗音楽のミックスといったところ。

12月はドイツの有名なジャズ・トランぺッター&ボーカリストのTill Broennerのライブを満員の中で聴く。

"Night in Tunisia"で始まり、ガレスピーへのトリビュートがテーマで"It Don't Mean A Thing"などを演奏。

10時過ぎから演奏が始まり、途中30分程度の休憩を挟んで真夜中の1時過ぎまで熱いライブを堪能。

タクシーをホテルへ走らせる途中、夜中の静かな道で見た戦勝記念塔(ジーゲスゾイレ)やブランデンブルグ門は暗闇の中に浮かび上がり非常に印象的でした。

フェリーニの映画「甘い生活」の中で映し出される白黒フィルム上のローマの街に重なりました。

ベルリン訪問の目的の一つが「ベルリン・フィルを聴く」ことであったので、美術館訪問後にフィルハーモニーへ。

アーベント・カッセ(当日券売り場)でなんとか立見席券が手に入りました。

10月21日の演目は、ロシアのヴァレリー・ゲルギエフの指揮で、グルジアの作曲家ギヤ・カンチェリの「STYX」というヴィオラ、合唱、オーケストラのためのレクイエム。

ヴィオラ演奏はロシアのユーリ・バシュメットです。

そしてチャイコフスキー交響曲第5番でした。

「STYX」にはヴィオラと合唱以外に、チェンバロ、ピアノ、鉄筋、エレキベース、打楽器等々、古楽器を含む珍しい楽器が使われていました。曲は静かで熱い。

強弱が繰り返され、間に十分な休止があり、休符の部分が曲の一部として重要なものとなっている。

コーラスも旋律を音符一つずつを別々の女性が歌って繋いだり、ヴィオラのソロがコーラスに引き継がれたり、ヴィオラの弦をこする音を使ったり、全く音を出さずに弦が空を引いたり。

スコアを分析するときっと楽しいだろうと思いました。

といってもこの曲には最初から最後まで非常な緊張を強いられました。美しいメロディとハーモニーにうっとりとしたとたんにフォルテッシモになってまた静寂へと息つく暇も与えられません。

1999年作曲で、同年11月にアムステルダムのコンセルトヘボウによって初演。今回はドイツ初演です。

響きにしろ音の消え入り方にしろ、ベルリン・フィルの音は素晴らしい。

後半のチャイコフスキーは、レパートリーで何百回と演奏しているというように、オケ・メンバーのリラックスした雰囲気が感じられました。もちろん、曲と演奏はロマンチックで激しい。

ゲルギエフの指揮はダイナミック。

後半演奏終了後、「STYX」の作曲家カンチェッリも壇上にあがり、盛大な拍手を受けていました。

とにかくロシア色の濃い演奏会でした。

出張 030

12月再訪時も、幸運にも再度ベルリン・フィルの立見席券を手に入れることができ、エレーヌ・グリモーのラベル「ピアノ協奏曲」の演奏を聴くことができました。

ついついアート&音楽の話が長くなってしまいました。

2000年以降もベルリンには出張で何度か訪れていますが、いつ訪れてもどこかで工事が行われていて、常に変わり続け発展している都市であるように思います。

次に訪れる際にはどのような新しい面を発見できるでしょうか。